アン-ルイーズ・ソマー
長年Design Museum Danmark (デンマーク工芸博物館) の館長を務めるアン-ルイーズ・ソマー氏は、閉館後の館内を歩くのが大好きで、日本刀の「鍔」のコレクションもお気に入りです。しかし特に好きなのが、ハンス J. ウェグナーによる多数のデザインをはじめとする、椅子のコレクションです。デンマークデザインの黄金時代や、それぞれの椅子の背もたれ、肘掛け、脚に隠された物語を、ソマー氏ほどよく知っている人はほとんどいないでしょう。
「ウェグナーは謙虚な人で、長年にわたって多くの椅子をデザインすることになったのは、単に、一つでいいから良い椅子を作りたいと願った結果だ、と言ったことがあります。」
「人間は本来、素材とクラフトマンシップを身近に、また感覚的に体験したいと思っているものなのです。」
館長というお仕事で最も気に入ってる部分はどこですか?
人々にデザインについて知ってもらい、優れたデザインの価値や可能性、そしてデザインが生活や仕事の場でより良い環境を生み出すのにいかに貢献しているかを学んでもらう一助となっているところです。閉館後の博物館を歩きながら、素晴らしい展示品の数々について静かに考えるひとときは、幸せでいっぱいになります。
博物館の一番のお気に入りは、どのコレクションですか?
日本刀の「鍔」のコレクションがとても気に入っています。刃と柄 (つか) の間にある円盤型の金属を装飾するのは、千年以上も前から行われてきた日本の伝統工芸です。家紋や自然の表象で飾られてきた鍔は、その多くが素晴らしい作品です。私が思うに、鍔にはデザインの3つの柱- 卓越したクラフトマンシップ、芸術的な側面、物語の要素-が揃っています。
1950年代から1960年代にかけての、デンマークデザインの黄金期の特徴は何でしょうか?
卓越したクラフトマンシップ、上質の素材、力強くかつ控えめな芸術的側面。また、デンマークの福祉社会から生まれた、民主的で人間的な出発点。人間は本来、素材とクラフトマンシップを身近に、また感覚的に体験したいと思っているものなのです。
今日ウェグナーのデザインが持つ意義とは、何でしょうか?
ウェグナーのデザイン手法は本質的に人間主義で、椅子が体をどう支えるかなど、人々のニーズという観点からデザインを捉えた、現実的なものでした。また、職人技によるディテールを取り入れたことにも意義があるかもしれません。それにより、実用面に終始せず、デザインに芸術的な要素も盛り込もうという配慮が感じられます。そうすることで、デザインには突如として、機能や品質以上のもの-純粋な美-が生まれるのです。ウェグナーは生涯で500点近い椅子をデザインしましたが、それはとてつもない功績だと思います。ウェグナーは謙虚な人で、長年にわたって多くの椅子をデザインすることになったのは、単に、一つでいいから良い椅子を作りたい、と願った結果だ、と言ったことがあります。しかし、ウェグナーの成果からは、優れた創造力、自己規律、芯の強さが窺えます。
ウェグナーの暮らしぶりや働きぶりについて知っていることを教えてください。
机を並べて勉強し、生涯の友であり親しい同僚であったボーエ・モーエンセンとウェグナーについて、ウイスキーが大好物だったモーエンセンと対照的に、ウェグナーはバターミルクを好んだ、という面白い話があります。それは2人について多くを物語り、それぞれの家具にも表れていると思います。