アンドリュー・ダンカンソン
スコットランドに生まれ、ストックホルムでインテリアギャラリーを経営するアンドリュー・ダンカンソン氏ほど、北欧のヴィンテージデザインについて博識な人は少ないでしょう。現在はロンドンにも支店があるダンカンソン氏のギャラリー「Modernity」は、20年以上にわたり、ハンス J. ウェグナー、フィン・ユール、アルネ・ジェイコブセンなどのデザイナーによる貴重なコレクター向け家具を中心とした、大手の北欧家具専門店として知られてきました。ダンカンソン氏にとってデンマークデザインは秀逸であり、それには十分な根拠もあります。
「コンテンポラリーな家具にヴィンテージを合わせると、美しいだけでなく、少し尖った刺激のあるインテリアとなると同時に、単なる演出ではない家庭の雰囲気が生まれます。」
「スウェーデンがイケアに行き着いてしまったのに対し、デンマークには今日も変わらることのない、あらゆる高級ブランドが生まれました。」
どんなきっかけでヴィンテージ家具の収集を始めたのですか?
昔、エジンバラでコンテンポラリーデザインの家具を販売する会社を経営しており、ヴィンテージデザインは趣味で集めていたのです。その後スウェーデンに移住して、20世紀のヴィンテージデザインを販売できる市場があることに気づきました。こうして1998年、ストックホルムのガムラスタンに最初の店をオープンしました。当初は要するに自分が集めたものを売ったのですが、店は2週間で半分空っぽになってしまいました。買い集める側から売る側に変わって辛かったか聞かれたことがありますが、家具を手放すことを悲しむ暇はありませんでした。
ヴィンテージ家具を自宅のコンテンポラリーなインテリアに加えると、どんな効果がありますか?
これは何にでも言えると思いますが、一つのスタイルだけでは、同じフィーリングや興奮は生まれません。ヴィンテージ家具には風格があり、年輪があり、歴史があります。コンテンポラリーな家具にヴィンテージを合わせると、美しいだけでなく、少し尖った刺激のあるインテリアとなると同時に、単なる演出ではない家庭の雰囲気が生まれます。
ハンス J. ウェグナーはどのような点で際立っているとお考えですか?
ウェグナーは信じられないほど多作でした。それは、作品の奥の深さと 多様なスタイルを見れば、一目瞭然です。ウェグナーはまた、新しい素材に挑戦するのを恐れず、革新的で独創的な方法で作品に取り入れました。
ダンカンソンさんにとって、デンマークデザインの伝統にはどんな意味がありますか?
非常に大きな意味があります。私たちは北欧のデザインを専門としていますが、北欧は様々な理由から、国ごとに全く違う特徴があります。スウェーデンは1920年代から1930年代前半までがピークでした。1925年にパリで開催された万国博覧会で、スウェーデンは26か27の賞を受賞しました。それはフランスに次ぐ数であり、それを契機にスウェーデンはデザイン界で知られるようになりました。しかし、1930年代以降スウェーデンは社会主義に偏向し、高級デザインはあまりにも上流階級的で高価だ、スウェーデンのデザインは大衆のためにあるべきだ、と批判の対象になったのです。
一方、デンマークには「家具職人組合展」という展示会があり、家具メーカーは家具デザイナーや建築家と協力しながら、40年にわたって最高の作品を創りあげてきました。この展示会のためだけに、非常に高品質の家具を作っていたのです。それは、デザインとクラフトマンシップの両方の品質が素晴らしかったことに他なりません。こうしてスウェーデンがイケアに行き着いてしまったのに対し、デンマークには今日も変わらることのない、あらゆる高級ブランドが生まれました。
北欧のモダンデザインに今日も通じる部分があるのは、どうしてでしょうか?
それは、北欧デザインのアジア的とも言える美的感覚と関係があると思います。ミニマルであると同時に、非常に優れた職人の技も込められいます。ここまでシンプルなものをデザインするのは簡単ではありません。しかし、デザインが完璧であれば、基本的にどんなインテリアでも機能します。北欧デザインのすっきりとしたラインと卓越した製作技術は、時代を超越するものなのです。